カブトムシの幼虫を探していると、狭い範囲からたくさんの幼虫が次々と出てくることがあります。実際に野外で調べてみると、一つの餌場の中でもある狭い範囲に幼虫が集中分布していることが分かりました(Kojima et al 2014)。集合が作られる仕組みの一つとして、メスが狭い範囲に卵を産むためであることが考えられます。しかし、幼虫の集中分布はなぜ長期間にわたり維持されるのでしょうか?

は、腐葉土中へ吹き込んだ呼気に対して幼虫が集まってくることに着想を得て、二酸化炭素が幼虫期における集合の形成に関わっているかどうかを調べました。幼虫の近くに二酸化炭素を与えたところ、幼虫は誘引されることがわかりました。また、幼虫は未発酵の腐葉土よりも発酵の進んだ腐葉土に対して誘引されること、発酵の進んだ腐葉土は多くの二酸化炭素を排出することが示されました。さらに、発酵の進んだ腐葉土で飼育した幼虫は、未発酵のもので飼育したときに比べ、大きく成長しました。これらのことから、幼虫は二酸化炭素を手がかりに、自分たちにとって適した餌である発酵の進んだ腐葉土を探し当て、その近くに集まってくると考えられます。

 次に、幼虫自身が排出する呼気も二酸化炭素の発生源として重要ではないかと考え、幼虫どうしの相互作用について調べました。実験の結果、幼虫は他個体に対して誘引されること、幼虫1個体が排出する二酸化炭素の量は、1530cm離れたところにいる他個体を誘引することがわかりました。また、腐葉土中で幼虫の密度が高くなると、その近傍において二酸化炭素濃度が上昇することも確かめられました。これらの結果から、幼虫の集合は以下のような仕組みで作られると考えられます。まず、発酵した腐葉土の排出する二酸化炭素に引き寄せられ、餌の周りに幼虫が集まります。多くの幼虫が呼吸をすることによって、その近傍での二酸化炭素濃度がさらに高まります。その結果、幼虫の集団はますます大きくなっていくと考えられます。

 そもそも幼虫は集合を作ることで何か利益を得られるのでしょうか。飼育実験を行うと、容器内の幼虫の密度が増えるにしたがい、幼虫の成長速度は低下していくことがわかりました。狭い範囲に集まることで、幼虫は利益を得るのではなく、逆に、餌不足などによる不利益を被るようです。幼虫の集合は、二酸化炭素に反応するという性質に由来する副産物なのかもしれません。カブトムシの幼虫や蛹は集団での生活に特化した、いくつかの適応を見せることがこれまでの研究から知られています。今回明らかになった二酸化炭素を介した集合性は、これらの社会的な適応を進化させる原動力となった可能性があります。



雑誌名:PLOS ONE

論文タイトル:Attraction to carbon dioxide from feeding resources and conspecific neighbours in larvae of the rhinoceros beetle Trypoxylus dichotomus

著者: Wataru Kojima

URLhttp://dx.plos.org/10.1371/journal.pone.0141733