カブトムシを食べたのは誰?

カブトムシの成虫を採りに行ったことがある人は、下の写真のように、何者かに食べられて頭や羽だけになったカブトムシを樹液の周りで見たことがあるでしょう。多いときには、1箇所の樹液の周りに数10体もの残骸が転がっていることがあります。

 

犯人は一体誰でしょうか?カラスが食べた、と主張する人がときどきいます。確かに状況的には十分あり得ますが、実際に樹液でカブトムシをカラスが襲う現場を見た人はほとんどいません。

カブトムシの天敵を調べるために、樹液のそばに、生き物が横切ったら自動的に作動する赤外線センサーカメラをセットしました。その結果、ハシブトガラスが確かにカブトムシを食べにくることが確認できました。しかし、ハシブトガラスよりもずっと多くのカブトムシを食べる生き物がいることもわかりました。

その生き物とは一体何でしょうか?

 

詳しい内容はここ(Kojima et al 2014のプレスリリース)をご覧ください

動画リンク

 

 

上記プレスリリースに関する補足

 

1. 角の長さと体サイズの相関

角が長いオスは食べられやすいことが示されましたが、角の長さと体サイズは強い正の相関を持つため、体サイズの効果と角の長さの効果を切り離すことは本研究では困難でした。つまり、体が大きいから食べられやすかったのか、それとも角が長いから食べられやすかったのか、その因果関係は不明です。角の長さを体サイズで回帰した残差をとるなどすれば、体サイズに対する角の長さを評価することは可能ですが、捕食されたカブトムシは角と残りの部分がばらばらになったり、計測不能なほど破壊されてしまうことも多く、この方法は使えませんでした。

 

2. なぜメスよりもオス、角の短いオスよりも角の長いオスが食べられやすかったのか

この理由はいくつか考えられます。たとえば、オスのほうが長い時間樹液に留まるから天敵に発見される確率が上がる、天敵の活動時間とオスの活動時間が重複する、オスのほうがおいしいからオスを選んでいる、などです。今回の研究からは、はっきりとした理由は分かりません。複合的な要因である可能性が高いですが、最大の理由は、角の長い(体の大きい)オスは目立ちやすいからだと想像しています。特に、重要な天敵であるタヌキは犬と同じように、視力がよくありません。目の前10センチ足らずのところにいるカブトムシを見失うような様子も、何度もビデオに収められていました。タヌキのような目の悪い天敵にとっては、オスの角の形状や、オスの活発な行動(オスはメスに比べ餌場で動き回る傾向がある)は、とりわけ目につきやすい可能性があります。

 

 3. カラスとタヌキ以外の捕食者は?

街灯に飛来したカブトムシを食べる天敵はかなり多いと思われますが、これは人間活動の影響ですので、ここでは論じません。樹液での捕食について話を進めます。

 唯一正式に報告がある捕食者はフクロウです (Hongo & Kaneda 2009, J Yamashina Inst Ornithology)。筆者の調査地でも、調査木のすぐ近くでフクロウの親子を確認していたものの、カメラにフクロウが写されることはありませんでした。フクロウによる、樹液でのカブトムシの捕食がどの程度一般的かは、今後の調査を待つ必要があるでしょう。

 現在注目しているのは、アライグマとキツネです。アライグマは関東での分布を年々拡大させており、調査地であるつくば市にも侵入しています。樹液を訪れることを確認しており、木登りのうまいアライグマは、カブトムシの重要な捕食者となる可能性を秘めています。キツネは、個体数を増やすアライグマやタヌキと対照的に、関東地方の平地では減少の一途をたどっているような印象を受けます。しかし、全国的にみると、タヌキに替わるように、平地にキツネが高密度で生息している地域も存在し、そのような場所では、カブトムシを捕食している可能性もあるでしょう。